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大阪高等裁判所 昭和54年(行コ)55号 判決 1981年8月04日

守口市日光町一七の三

控訴人

田路直行

右訴訟代理人弁護士

宇賀神直

大阪市生野区勝山北五丁目二二番一四号

被控訴人

生野税務署長

鍋谷政憲

右指定代理人

小林敬

坂田行雄

後藤洋次郎

太田吉美

河口進

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  控訴人

(一)  原判決を取消す。

(二)  被控訴人が控訴人に対し昭和四六年七月一九日付でなした控訴人の昭和四三年ないし昭和四五年分各所得税の更正処分および過少申告加算税賦課決定を取消す。

(三)  訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二当事者の主張・証拠関係

当事者双方の主張・証拠関係は、左記のとおり付加するほか、原判決の事実摘示と同じであるから、これをここに引用する。

一  原判決三枚目裏七行目の次に行を変えて「なお、原告の各施主に対する工事代金請求書控に基づいて算出した金額が売上計上もれである旨の被告の主張および乙第二二号証の一ないし三〇の提出は、時機に後れた攻撃防禦方法であるから、却下されるべきである」を加入する。

二  控訴人の主張

(一)  水洗便所工事代金は、工事完成・引渡しをしただけで直ちに代金の請求ができるのではなく、大阪市からの貸付補助金が出るのでその後に請求ができるに至る。また、工事完了には施主の署名または捺印があり、これによって工事完成・引渡しの事実が明らかになるのであるから、代金請求の日付が工事完成・引渡しの日ではない。したがって請求書の日付が昭和四五年になっていても工事の完了が同年であるとは限らない。

(二)  被控訴人主張のような記帳もれは争うが、仮に記張もれが三一三件あるとしても、そのうち、少なくとも二五〇件は昭和四五年に工事引渡しがなされたものではない。

(三)  水道工事代金二八三万八、三三〇円については、名義を借りている訴外渡辺工業所から「水洗便所工事に付帯して水道工事をしているではないか。その手数料を支払ってほしい」旨の話があったので、その名義を借りた昭和四二年から同四五年までの名義料として概算で二八三万八、三三〇円を支払ったにすぎない。

(四)  控訴人の売上帳上、記帳もれが三五二件ある旨の被控訴人の主張は、原審で撤回されたものであり、これを再度主張することは信義則に反し、かつ時機に後れたものであり、訴訟の完結を遅延させるから却下されるべきである。仮に控訴人の右主張が理由を欠くとしても、被控訴人の右主張事実はこれを争う。

三  被控訴人の主張

(一)  控訴人の売上帳(乙第一五号証)の記帳年月日と請求書の発行年月日を比較対照すると、両者はそのほとんどが軌を一にしているから、売上帳は請求者の発行年月日を基準にして記帳されていることが明白である。したがって、三一三件の記帳もれも昭和四四年以前に工事が完了したものではない。

(二)  本件水道工事代金二八三万八、三三〇円について、訴外渡辺鉄工株式会社代表取締役渡辺三喜雄は施主あてに水洗便所工事代金の請求書の発行事務をした本人ではないから、水道工事代金がともに請求書に記載されているかどうかを知るはずがなく、また、いつ行われた水洗便所工事分であるかを特定できるはずがない。

(三)  控訴人の当審における主張により被控訴人の従前主張にかかる三一三件の記帳もれ分が認められないとすれば、被控訴人は控訴人の売上帳と大阪市水道局に対する届出工事件数との差異に基づく収入金の計上もれを次のとおり主張する。

大阪市水道条例四条によれば、排水設備に関する請負工事の目的物の完成および引渡しは、少なくとも確認調査日と竣工検査日との間にあり、確認調査日と竣工検査日がともに昭和四五年中であれば、当該工事は昭和四五年中に完了し施主に引渡したものであるところ、控訴人は水洗便所工事において売上帳簿上三五二件の工事の計上もれをしている(乙第一五号証と同第一六号証との対比)。この計上もれの収入金額は、

<省略>

となるから、結果として各係争年分の事業所得金額は、原処分額(ただし、各年分とも裁決により一部取消後の金額)を上廻ることになり、控訴人の主張は失当である。

(四)  控訴人主張の信義則違反の主張は、争う。

(五)  被控訴人の前記三五二件の計上もれの主張は、時機に後れていない。すなわち、被控訴人の右主張は、控訴人の当審における主張立証にそってなしたにすぎず、なんら新たな立証を要するものではなく、また訴訟の完結を遅延させるものでもない。

四  証拠関係

(一)  控訴人

(1) 甲第九号証の一ないし六、第一〇ないし第一五号証、第一六号証の一ないし五九、第一七ないし第二〇号証を提出。

(2) 当審における控訴人本人尋問の結果を援用。

(3) 後記乙号各証の成立を認める。

(二)  被控訴人

(1) 乙第三〇号証の一ないし五、第三一ないし第三六号証を提出。

(2) 甲第九号証の一ないし六、第一五号証の成立をいずれも認める。第一〇、第一一、第一九号証は、いずれも官公署作成部分の成立を認めるがその余の部分の成立は知らない。その余の右甲号各証の成立は知らない。

理由

一  当裁判所も、原審と同様に、控訴人の本訴請求は理由がなくこれを棄却すべきものと判断する。その理由は、左記のほか、原判決の理由に記載するとおりであるから、ここに、これを引用する。

1  原判決五枚目裏四行目の「三一三件」から同六行目の「をなし」までを、「昭和四五年中に相当数の大阪市の助成金等のついた水洗便所工事をし」と改める。

同七行目の「間に」の後に、「件数にして三一三件、売上金額合計一、六四七万八、〇五一円について」を加える。

同九行目の「完了すれば」の後に、「原則として」を加える。

同一二行目の「原告本人」の前に、「原審および当審における」を加える。

原判決六枚目表二行目の後に、行をかえて、「被控訴人は、控訴人が昭和四五年中にした水洗便所工事は、前記(1)のほかに昭和五二年四月二七日付被控訴人準備書面添付別表(同年九月七日付同準備書面で削除されたものを除く。)記載の三一三件があり、前記(3)認定の請求はすべて昭和四五年中に完成し引渡された工事代金の請求にほかならないと主張する。そして、成立に争いのない甲九号証の一ないし六、官公署作成部分について争いがなくその余の部分について弁論の全趣旨により成立を認める同一〇号証、同一一号証、同一九号証(大阪市下水道局の竣工検査年月日等の記帳等に基づき同局長が作成した証明書)等の反証その他口頭弁論にあらわれた証拠を対比検討し、乙二二号証各証記載の工事と同一のものと一応推察され昭和四五年中の完成引渡について一応疑念をもたれる可能性のあるものについては、すべてこれを除外して計算しても、前記(3)認定の請求工事代金に相当する水洗便所工事のうちその相当部分が昭和四五年中に完成引渡されたものと認定することができるのであるけれども、なお右の中には、同年中に完成引渡されたものかどうかについて若干の疑念が残るものがある。」を加える。

2  原判決六枚目表三行目から五行目を削り、ここに、次のとおり加える。

(1)  しかしながら、本件記録によると、次の事実を認めることができる。被控訴人は、原審において、当初は大阪市下水道局が同市下水道条例に基づき実施した確認調査および竣工検査の各年月日を根拠に(乙一六号証)、合計三五二件の工事売上金額が控訴人の売上帳(同一五号証)に記載されず計上もれになっていると主張したところ、控訴人は右工事のうち大部分は被控訴人主張の各確認調査日ないし各竣工検査日の前である昭和四四年以前に完成引渡ずみであると反論した。この反論に応じ被控訴人は前記主張を撤回し、乙二二号証の一ないし三〇(請求書一覧表)を根拠に、前記同一五号証に計上もれの水洗便所工事売上金額の存在を主張し立証したところ、原審は右主張を認容した。これに対し、控訴人は、当審において右の同二二号証の一ないし三〇記載の請求金額に相当する工事の一部は昭和四四年以前に完成引渡ずみのものであると主張し、反証として大阪市下水道局の竣工検査年月日等を記載した同局長作成の甲九号証の一ないし六、同一〇号証、同一一号証、同一九号証等を提出し、乙二二号証各証によっては被控訴人主張の昭和四五年分の水洗便所工事売上金額の存在を立証することはできないと争った。

被控訴人の原審における当初の主張に対する控訴人の前記反論は、大阪市下水道局の確認調査日および竣工検査日に関する記載が正確ではなく信用できないことを前提とするものである。しかるに、これに応じ被控訴人が前記のように主張を変更し原審で認容されたところ、控訴人は当審において前記甲号各証を提出して争ったのであるが、同号証は大阪市下水道局長の竣工検査日等に関する証明書であって、これらを証拠として提出することは、条例に基づき同局が実施することとなっている竣工検査が必ず実施され同局の記入する竣工検査日の記載が正確で信用できるものであり、同じく条例に基づき同局が竣工検査に先だち実施記入する確認検査日の記載も同様であることを前提とすることは明らかである。そこで被控訴人は、このような同局の竣工検査日等に関する記載が正確で信用できるものであることを前提とする控訴人の立証の態度に応じ、前記原審において当初に主張したように主張を変更するにいたったのである。

被控訴人が当審において予備的主張として(これが、いわゆる予備的主張にあたるかどうかは別論である。)右のように主張を変更したのは、前記のような経緯によるのであり、また、当審において立証の資料とされる乙一六号証は原審で提出され当事者間に成立に争いがなく、本件訴訟の経過にてらせば、被控訴人の右主張につき判断するについて本件訴訟を遅延させるものとは認められない。

してみれば、被控訴人の右主張の変更は、なんら信義則に反するものではなく、民訴法一三九条により許されないものでもないことは明らかである。

(2)  成立に争いのない乙一号証、同一六号証、同二三号証ないし同二七号証、および前記(1)で認定した経緯にある本件訴訟における弁論の全趣旨によれば、控訴人がした水洗便所工事のうち、大阪市下水道条例に基づき昭和四五年一月から同年一二月までの間に同条例所定の確認調査と竣工検査のなされたものは、前記乙一五号証に記載されたもののほか、昭和五五年一二月一二日付被控訴人準備書面添付別表に記載のとおり三五二件を下らない事実を認めることができる。そして前記乙一号証によれば、水洗便所工事の完成引渡日は、条例に基づき実施される確認調査日と竣工検査日との間にあることが明らかであるから、これに前記認定の事実を併せ考えると、控訴人が昭和四五年中に完成し引渡した水洗便所工事は、乙一五号証に記載されたもののほか、右の三五二件を下らないものと認めるのが相当である。

原審および当審における控訴人本人尋問の各結果、これにより成立を認める甲四号証の一ないし二四九、同五号証の一ないし一六九、同一六号証の一ないし五九のうち右認定に反する部分は、前掲証拠と対比して採用することができないし、他に右の認定を左右するに足りる証拠はない。

(3)  してみれば、控訴人の昭和四五年分の水洗便所工事売上金額は、後記認定の一般経費のうちの申請料の増加分を控除しても、なお前記乙一五号証記載の金額を加え、原審が認定した合計七、七七四万九、三一二円をこえることが計数上明らかである(前記記帳もれ三五二件の水洗便所工事一件の代金額は、弁論の全趣旨に徴し、乙一五号証に記載された工事代金合計額を同号証に記載された件数で割って算出された金額であり、したがって右三五二件の合計金額は金一、六九六万八、八六四円であると認める。)

3  原判決六枚目表一一行目の「認められ」の後から同末行目までを削り、ここに、「る。原審および当審における控訴人本人尋問の各結果、これにより成立を認める甲一八号証中前記認定に反する部分は、前掲乙一七号証同一九号証、および成立に争いのない同三六号証と対比して採用することができないし、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。」を加える。

原判決七枚目表四行目の「一、五八四件」を「一、六二三件」に、同六行目の「二一二万二、五六〇円」を「二一七万四、八二〇円」に、同九行目の「九六四万四、二九一円」を「九六九万六、五五一円」にあらためる。なお同枚目裏一〇行目の「六五五万六、三八四円」の後に、「をこえると」を加える。

二  以上のとおりであって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、民訴法九五条八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栗山忍 裁判官 村山博巳 裁判官 川端敬治)

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